とりもどせ いにしえの郡市医師会を

八木 謙

 2024年4月19日 令和6年度第2回岩国市医師会臨時総会が開催された。
議長より「本人出席32名、有効委任状94名、合計126人出席で総会員の過半数に達しましたので当総会は成立しました」と宣言された。
その内容は、
会員総数 194名
出席会員数 126名
内訳 本人出席 32名
委任状95名(有効任状出席94票,無効委任状1票)
であった。
本当に岩国市医師会臨時総会は成立したのか。
「この郡市医師会の総会は成立していません」と訴えるのは山口県医師会員4000人のうち私一人であろう。変人扱いされてもしかたがない。
しかし、実際に成立していないのだ。総会が始まったとき、いや始まろうとしているとき議長は総会が成立したか否かを確認するため出席者数を数える。
議長が総会は成立したと認識する根拠は岩国市医師会定款20条21条による。
第20条 総会は、会員の過半数の出席がなければ、開催することができない。
第21条

  1. 総会に出席しない会員は書面によって議決権を行使することができる。
  2. 総会に出席しない会員は、他の会員を代理人として議決権を行使することができる。
  3. 書面決議又は代理人により議決権を行使した会員は、総会に出席したものとみなす。

正確な定款文は以下
(総会の定足数及び決議)第20条 総会は、会員の過半数の出席がなければ、議事を開き、決議することができない。
2 総会の議事は、出席した会員の過半数でこれを決する。
3 前項の規定にかかわらず、次の決議は総会員の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う。(1)会員の除名(2)監事の解任(3)定款の変更(4)解散(5)その他法令で定められた事項
(書面決議等)第21条 総会に出席しない会員が書面によって議決権を行使することができることとするときは、会員は、あらかじめ通知された事項について、書面によって決議することができる。
2 総会に出席しない会員は、他の会員を代理人として議決権を行使することができる。

3 前2項の規定により議決権を行使した会員は、前条の規定の適用については、総会に出席したものとみなす。


難しい言葉使いをしているが意味するとこは上記と同様である。問題は21条3項の「議決権を行使した」と過去形が使われていることである。総会が始まったとき、投票は未だ行われていない。委任状提出者は未だ議決権を行使していないのである。委任状提出者は総会が始まろうとしている時点では出席者としてカウントできない。この時点で委任状提出者は未だ出席者では無いから総会出席者は会員総数の過半数に達しておらず総会は成立していない。

委任状について考えてみたい。委任状という言葉は昔からあった。
単純モデルとして総会員数50名ほどの医師会を置く。総会において実出席者10名、委任状20枚があったとする。総会員数の過半数の出席で総会は成立する。25人の出席では総会は成立しない、26名以上の出席が必要である。今回実出席者と委任状出席の計30名の出席で総会は成立した。いにしえの医師会の考え方では実出席者10名が会議で討議し最終結論を出す。総会に出席しなかった会員は決まった事に従う。出席した10名は一人ひとり同等な発言権と同等な議決権を持つ。民主的な会議である。この事を文章にして「高天原の会合」という題で県医師会報に投稿に投稿した*1)。これは没になった。この原稿に対し県医師会と私との間でやり取りがあった。新しい定款では例えば委任状20枚すべて会長宛になっていたとすると会長ひとりで21票の議決権を持つことになる。

「一般社団及び一般財団法人に関する法律」の48条に社員は各1個の議決権を持つと書かれている。「一般社団及び一般財団法人に関する法律」は2006年に制定され、2008年施行された。岩国市医師会はこの法(以下一般社団・財団法と略す)の下で一般社団法人に認定された。この法の下で一般社団法人に認定された以上この法に従わなくてはならない。そこで会長ひとりが21票の議決権を持つのはこの法に反するのではないかと問うた。後日、県医師会から回答が来た。顧問弁護士に依頼しての返事だった。この回答に驚いた。なんと会長は21票の議決権を持たない。会長は自分の1票だけの議決権を持つというものであった。この弁護士さんの法解釈・各郡市医師会定款解釈は正当だ。これは古の郡市医師会の考え方と同じである。だが新しい定款下では委任状を受け取った会員はその委任状を出した会員の議決権を手に入れる。一人が複数の議決権を持つことができるというのが常識的な考えになっていた。10年前この委任状を使う制度では独裁者の出現を許してしまうという趣旨の文章、題「デモクラシーの崩壊」を県医師会会報に投稿した*2)。これもBANされた。しかし今回県医師会顧問弁護士は独裁者の出現は許さない。ひとり1票の議決権しかないとの見解を示したのだ。ありがたい。
だがここで困った問題が生じる。定款20条2項である。総会の議決は、出席した会員の過半数でこれを決するとある。今、総会出席者は30人である。15人の賛成では議事は決しない。16人の賛成があって議事は決する。実出席した全員10人の賛成ではどんな議事も通過しない。弁護士はこの問題をどう考える。

山口県下の郡市医師会の定款は山口県医師会から押し付けられたものである。GHQに押し付けられた日本国憲法と同じである。GHQは押し付けたとは言わない。日本国民の為を思ってモデル案を制作してあげたのだ。その憲法を採用するか否かは日本が決めればいいのだと。それは大変ビッグなお世話になりました(大きなお世話です)。
岩国市医師会も県医師会が作成した郡市医師会定款モデル案を採用するしか無かったのである。岩国市医師会が悪いのではない。玖珂、岩国その他の数個の郡医師会定款を読んでみたが、多少の表現の違いはあるものの内容は一緒である。21条の3項は総て「議決権を行使した」と過去形が使われている。

玖珂医師会が一般社団法人になるとき質問した。何故我が医師会は一般社団法人にならなければいけないのですか。回答は「当医師会は会員からの会費だけで運営している。一般社団法人になるのは税制を有利にする為ではない、名誉の為だ」

山口県産婦人科医会という会員数150人ほどの会がある。この会は一般社団法人になっていない。よって一般社団・財団法に縛られない。会則に委任状提出者は総会に出席した者と見做すと明記してある。

医会は法人にならなくていいが医師会は法人でなくてはならないという思い込みがあるのかもしれない。医会と医師会の違いを辞書で調べてみた。
医会:日本の医師による団体を指す。
医師会:医師の職業団体。
法的に同一である。医会=医師会と解釈していい。
例えば岩国産婦人科医会を「岩国産婦人科医会」と名乗ってもいいし、「岩国産婦人科医師会」と名乗ってもいいのだ。
さらに格上げして一般社団法人岩国産婦人科医会としてもいいのだが、そんなことをする意味がないのでしない。山口県産婦人科医会の上部組織である日本産婦人科医会は公益社団法人である。
格が上だ。内科医会、小児科医会等々この形式である。

前述の定款20条2項の問題に帰ろう。議事が成立する為には16名以上の賛成が必要なのだ。出席者全員10名の賛成ではどんな議事も通過しない。弁護士はこれをどう解釈するかと問うた。解は一般社団・財団法にある。一般社団・一般財団法の48条「社員は各1個の議決権を持つ」とある。それと岩国市医師会定款20条2項「総会の議決は、出席した会員の過半数でこれを決する」の両者を同時に満たす方法は存在するか。存在する。それは代理人選考を行う格個人が議決権を持つ事。これは定款21条2項「総会に出席しない会員は他の会員を代理人として議決権を行使することができるに合致する。つまりx1,x2~~x20の20人の総会に出席しない会員がYという人を代理人に選んだとする。Yは事前にx1に対しこう言わなければならない。x1先生、あなたは私を代理人に指定されました。総会当日私はあなたの代理人として総会に出席してまいります。つきましてはあなたのお考えを前もって拝聴しておきたい。当日計4題の議題が提出される予定です。議題1についてのあなたの賛否、続いて議題2から議題4までのあなたの賛否。これを聞いておいてあなたの考え通りの投票をしてまいります。Yはx1からx20までの20人にこの話をしておかなければならない。一人4題の20人分の議題の賛否をメモしその通りの投票をする。これは大変な作業である。
般社団・一般財団法がYに対しこのような手順を踏むことを求めている証拠がもう1つある。それは同法の48条2項である。「社員総会において決議をする事項の全部につき社員が議決権を行使することができない旨の定款の定めは、その効力を有しない」x1がYに自分の議決権を譲渡する、x1が自分の議決権を放棄する。という定款はその効力を有しないと法に銘記されている。これはどういうことか。一般的な委任状、例えば今回の岩国市医師会総会への委任状は「私は、令和6年4月19日に開催される岩国市医師会総会には都合により出席できませんので、総会に関する一切の権限を(氏名)           に委任します」とある。この委任状は無効である。x1が確実に自分の議決権を行使できる権利を有することは法が保障している。

山口県医師会には郡市医師会を一般社団法人にする尽力をつくして下さるより自らが公益社団法人に格上げする努力をして頂きたかった。これは産婦人科の都合なのだ。我々の都合だけで県医師会を変えるというのは心苦しいがそんな事情ができた。2008年母体保護法が書き換えられた。14条「都道府県の区域を単位として設立された社団法人たる医師会の指定する」が「都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する」に変えられたのだ。山口県医師会が公益法人にならなければ山口県は母体保護法指定医の任命資格を失う。我々は焦ったが我々の微力ではどうにもならない。2013年この法が効力を発する直前どんでん返しが起こった。公益という文言を削除したのではない。14条の公益社団法人たるをそのまま残し、40条からなる母体保護法に追加条文として41条を置いた。内容は公益社団法人でない都道府県医師会にも指定医医師指定権を与える。一般社団法人であっても「特定法人」としてこれを許すとしたのである。ただし公益法人にならない都道府県医師会は厚生労働大臣の管理下に置く。寸前のところで山口県医師会は母体保護法指定医指定権の剥奪から逃れられた。法文作成に不得手な者が法文をいじくり回すからこんなドタバタ劇になる。いい迷惑だ*3)。

医師会(=医会)のとる形式は3つある。
法人

  1. 公益社団法人
  2. 一般社団法人

非法人

  1. その地区の医師という同業者の集まり

医療経営に医療法人と個人医療経営の両者が存在するのと同じだと考えればいい。

それでは我々新岩国市医師会はどうすればいいか。
岩国市医師会の今後の進むべき道は2つある。

一つは一般社団法人を捨てる。そうすれば一般社団・財団法に縛られない。定款あるいは会則に「委任状提出者は総会へ出席と見做す」と堂々と書けばいい。そうすれば今までどおり委任状を使える。医師会が非法人となっても行政との交渉、会員への連絡等医師会としての仕事は滞りなく行うことができる。
もう一つの道は折角一般社団法人になったのだからこれを続ける。名誉あるこのポンコツ定款をそのまま利用する。委任状は使えない。書面議決書を使う。書面議決書の提出は期日前投票という事だから議決権を行使した者という過去形で行ける。書面議決書は総会出席者としてカウントできる。
総会への出欠票を


第〇〇回総会に

      出席  欠席

欠席者は書面議決書を提出して下さい
議案第1号xxxxx  賛成  否
議案第2号xxx    賛成  否
議案第3号xxxx   賛成  否
議案第4号xx     賛成  否


としておけばいい。これで総会は成立する。

岩国市医師会会報 2024年7月号に掲載

注:

*1)*2)*3)は私のホームページに掲載した。

*1)高天原の会合
*2)デモクラシーの崩壊
*3)アウトロー