八木 謙
厚生労働省は母体保護法の指定権限は公益法人である都道府県医師会に委譲するが、一般法人である都道府県医師会には委譲しないと決めた。
公益法人になれない県は母体保護法指定医の認定権を取り上げられ、その指定権限は厚生労働省に行くというシナリオが考えられる。
それは具合が悪い。なぜ厚生労働省に行ってはまずいか。
指定医本人に対する認可、施設に対する認可、これは厚生労働省が行なっても問題ない。問題は手術の適用である。これを法どおりにやりなさいと言われたらどうしようもなくなる。
私はこの法自体に欠陥があると見ています。本来ならこの法はこういう文面でなくてはならない。「中絶手術はこれを行ってはならない。ただし指定医が認めた場合はその限りではない」となっていればいい。こう明確に指定医の裁量権を認めているのならいい。これなら別に厚生労働省が管理しても問題ない。
しかし、実際の母体保護法の文面は「~~、~~の理由によりこの妊娠の継続が母体の健康を著しく害するおそれがあるもの」となっており、これは医学的適用のみで社会的適用を認めていないのです。だが現状は病気の妊婦のみだけでなく健康な妊婦の正常な妊娠も行なわれているし、それが求められている。つまり①社会的適用で手術をしてやってくれ。②ただし法は厳守しろ。これは全く矛盾した要求を指定医に課していることになります。
これは産婦人科医である保護法認定委員会が産婦人科医の会員に対し「中絶の適用は厳密に守って下さいね」と言っているから成立している。阿吽の呼吸です。認定委員会と指定医はこの法の欠陥を補う関係であります。
この法の管理者が厚生労働省に行くと、具体的にはその地の保険所長になると思われますが、彼に「厳密に法を施行せよ」と言われると現時点で我々の行なっているほとんどの症例が違法中絶と解されます。
県医師会でも医会でも学会でもいい管理者の実体は産婦人科医であることが必要です。
この事は他科の医師に言っても理解してもらえない。産婦人科のエゴととらえられるだけです。
また欠陥のある法だからこれを破ってもかまわないというこの主張は世間には通用しない。
もしこの法の管理が厚生労働省に行くなら、法を「ただし指定医が認めた場合はその限りではない」と書き換えて貰わなくては我々はこの仕事が出来ない。
しかし、法を書き換えて自由にこの手術が行われるようになるのはよくない。現状のままがいいのです。この手術を受ける者もこの手術を行う者も、これは違法な事をしているのではないかという後ろめたさを感じる。この後ろめたさがこの手術の抑止力になっている。「女性には中絶を受ける権利がある」と声高々に主張するような風潮は抑えるべきです。この国では堕胎は法で禁じられているという事が前提になっている必要がある。
さてこの母体保護法(旧優性保護法)が制定されたのは昭和23年、日本が占領下の時代です。GHQは優性を保護する、言い換えれば劣勢は排除するというこの法を日本政府に任せるのは危ないと考えたのでしょう。そして医師会に任せた。GHQの判断は正しかった。それ以後この法はこの国で何の問題もおこらず適用され今に至っている。当時、産婦人科医会は存在していなかった。存在していたら医会が引き受けていてよかったのではないかと思います。そう考えれば、今日この時点で、県医師会から医会支部に移っても不自然なことではない。
医会本部は議員に働きかけ、法を改正して日医がその権限を持つようにしようとお考えのようですが、そんな事をしていたら時間切れになる。法を書き換える必要はない。現行のままで行けます。
厚生労働省は現状の適用上で何も問題がないにもかかわらず、法の言葉の綾を取ってこの権限を取り上げようとしている。「公益法人である」という文章をもとの「社団法人である」に戻すことも禁じた。ゴリ押しです。理不尽なやり方で怒りを覚えます。むこうがそのような手段で来るなら、こちらも同様な言葉の綾で対抗処置をとるまでです。
以下私の案を示します。
①医会支部が公益法人化する。本部はなってもならなくてもいい。
②支部の名称を○○県第2医師会と名乗る。
③そ指定権限を○○県医師会から○○県第2医師会(旧名称、医会支部)に移譲する。
これは全国統一して行なわなければならない。医会本部が信頼できる税理事務所に定款の雛形を作らせ、それを各支部に配布する。そして全都道府県に公益法人化した第2医師会を置く。
これで法を変えずに対処できます。