マイナンバー保険証の違法性

『医療従事者向け総合医療情報「m3.com」に掲載』

2023/6/16

八木クリニック(産婦人科)八木 謙

 誠実で口の堅い友人のA君に、
「これは絶対に他人に言うなよ。絶対だぞ」と言って秘密を明かす。
A君は約束を守ってその秘密を拡散せず、誰にも言わなかったとしても、私がA君に秘密を明かした事自体が守秘義務違反である。

 デジタル庁へのマイナンバーカードの健康保険証利用に関する説明は
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マイナンバーを利用して個人情報を見ることができるのは、それぞれの手続きを行う行政職員しかおりませんのでご安心ください。
ちなみに、行政職員であっても、見ることができるのは自分の担当する業務に関する個人情報のみで、当該業務に関係のない情報は、行政職員であっても見ることができない仕組みとなっています。

 医師がデジタル庁へ患者の秘密を明かした事自体が口の堅い友人のA君に秘密を明かしたのと同質である。

 私は産婦人科医である。患者の秘密は守らなくてはならない。女性には夫にも知らさない秘密だってある。医師は絶対に秘密を洩らさないという信頼関係があればこそこの職業は成り立つ。
 以前警察が来た。事件の捜査に協力してほしい。これこれの条件に合う患者のリストを出してくれ。私は断った。医師には守秘義務があるから出せないと言った。その警察官は我々にも守秘義務がある、貰った情報は洩れることはない秘密は保たれていると言った。その警察官に私は反論した。公務員の守秘義務と医師の守秘義務は同等ではない。医師の守秘義務は刑法上にある。これに抵触した場合懲役刑の可能性もある。公務員の場合守秘義務を破ったとしても懲役になることはない。医師と公務員の守秘義務を同等に扱って貰っては困る。
 これからは私の考え。裁判所命令があれば別だ。裁判所命令でカルテを押収した場合、秘密保持の責任は裁判所に移る。ここで医師の守秘義務は消失する。職員が患者の秘密を漏洩した場合はどうだろう。看護師、事務員に刑法上の守秘義務はない。この場合患者の秘密の漏洩の責任は院長にある。しかるべき刑法上の罰は院長に下される。そうなった場合その原因となった職員は解雇されても仕方がない。私のところの職員は私の警察への対応等見ているから患者の秘密を漏洩するような愚は犯さない。患者の情報を院内の職員が共有するのは当たり前である。そうしないと業務が円滑に遂行出来ない。ただ患者の情報が院外に漏洩することはない。患者の電子カルテは院内のサーバーに保管される。このサーバーは院外とラインで繋がっていない。レセプト請求はそれ用のパソコンで別個のラインで行われている。診療報酬支払基金が当院のサーバーに入り込んで患者カルテを閲覧することは物理的にできない。
 だが、今度のデジタル庁マイナンバーカード健康保険証はそれが可能になる。国の機関と私の診療所のサーバーをラインで繋ぐ事は医師に科せられた刑法上の守秘義務に抵触する。国が医師に刑法上の守秘義務を破れと要求する事自体が違法行為である。