『令和3年度玖珂医師会報「夏号」に掲載』
八木 謙
日本医師会は厚生労働省に人工妊娠中絶を行う場合配偶者の同意が必要であることになっているが、DV夫の場合は夫の同意を省き妻の同意だけでよいか、とする照会をしました(3/4)。それに対し厚生労働省はDV夫の場合、夫の同意は不要であると回答しました(3/10)。産経新聞、中国新聞はこの記事を掲載しましたから(3/16)ご存じの方はいらっしゃると思います。しかしちょっと考えるとおかしな話ではありませんか。日本は三権分立の国でしょう。法律では既婚者の中絶の場合夫の同意が要らないのは
・知れないとき(行方が知れない、生死が知れない)
・意思を表示することができないとき(coma状態)
・死んだとき
の3つしかありません。
母体保護法14条の2項
前項の同意は、配偶者が知れないとき若しくはその意思を表示することができないとき又は妊娠後に配偶者がなくなったときには本人の同意だけで足りる。
DV夫から同意書を得られにくいのは分かります。しかし法は上記3件しか夫の同意なして中絶することは認めていません。
アメリカ医療ドラマのDr.ハウス(ヒュー・ローリー主演)によく判事が登場します。医療現場で法的な問題が起きたとき、病院に判事がやってきて簡易裁判を行う。例えば子供の治療方針をめぐり両親の考えが違う場合、医師にはどっちも決められない。判事がやってき来て子供、父親、母親、主治医の4者の意見を聴き、この件は母親に親権があると裁定しますと言う。よしじゃあすぐ手術にかかれ。と即決できる。これが出来るのは司法だけです。
日本の法では夫の同意なく中絶手術ができるのは上記3つしか認められていません。しかし司法がこの症例に関しては夫の同意なくして手術してよいとする裁定をすれば医師は手術できる。
くりかえして言いますがこの裁定を下すことができるのは司法だけなのです。行政ではありません。
日本でも裁判所が保護命令を出しています。保護命令を出すついでに必要があれば中絶手術許可命令を出せばいいのです。
裁判所の裁定が出るまでは医師は法に反する手術をすることはできません。たとえ厚生労働省が許可してもダメです。厚生労働省にそれを許可する権限がありません。「三権分立」司法、立法、行政は互いに独立しているのです。
権限がない者の言として以下の例を考えてみましょう。
私が東大法学部への入学を許可すると言った。私にその権限が無いんだから入学できる訳はありません。父親から息子は東大法学部へ入学出来るだろうかと聞かれ、息子さんは成績優秀なんだから東大法学部へ入学できます、私が保証しますよ。と言ってるにすぎません。その発言になんの責任もない。厚生労働省のDV夫の場合中絶手術には夫の同意は不要であるという言葉にもなんの責任もない。DV夫の場合中絶手術には夫の同意は省いていいんでしょうかと聞かれ、そういう場合は省いていいでしょうと意見を述べただけです。なんの責任もない。厚生労働省には許可する権限がないんだから、権限がないことに回答した事項に対する責任は生じません。責任を取るのは手術を行った医者です。
厚生労働省へこのような質問をしたこと自体が間違っているのですが、根はもっと深いところにあります。これはポリティカル・コレクトネスを信奉する勢力が政治的に相当の力を持ってきた。虐げられている女性を援助する。こう言われると誰も反対できない。こういう勢力が日本医師会、厚生労働省に圧力をかける。人種差別、人権尊重、女性の権利、マイノリティの保護、特に性的マイノリティ(LGBTQ)の保護を主張する。LGBTQ用のトイレを作れだとか、医療機関での問診表に男女の別を示す欄をなくせとか、同性婚を認めろとか、イギリスでは助産師が母乳保育を止めろという運動をしています。赤ん坊はミルクで育てなくてはいけない。ミルクなら男性でも飲ませることができる。男女平同の社会を目指す。行き過ぎたお節介でしょう。この根底には社会主義思想があります。女性の権利を保護する運動をしている人々は自分が社会主義思想に動かされているとは気付いていません。気付かないまま法の秩序の崩壊、社会の倫理感の消失、規範の混乱をもたらしています。
ポリティカル・コレクトネスとは何か。政治的正しさと訳されています。法的正しさに相反する思想です。最近はアイデンティティ・ポリティックス(マイノリティを優遇する政治)と言われることもありますが、基本的には同じことです。ポリティカル・コレクトネスを馬渕睦夫さんは以下のように説明しています。
世界のグローバル市場が生み出したアメリカ人を含む人類全体の不公平さから目をそらすために考案されたのが、ポリティカル・コレクトネスです。
「知ってはいけない現代史の正体」馬淵睦夫著p.189
共産主義者=グローバリスト=国際金融資本『すべて一緒だった!』
女性蔑視発言で東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長の森氏の解任。お笑いタレントを侮辱した企画を作成したとして東京五輪・パラリンピック開閉会式の企画、演出の統括役でクリエーティブディレクターの佐々木氏の解任。これらの裏には大きな力が働いていると思われます。国際金融資本家の手先が資金を投入してこうした運動を活発にする。日本の団結を崩し、規範を低下させ、上記三権分立の秩序を乱す。東京オリンピックが不成功となれば、新規建設されたホテル業者は倒産に追い込まれる。そこに国際金融資本家の魔の手が伸びる。歴史上行われてきた常套手段です。そこを見抜かなければならない。馬淵氏は続けて言います。
悪魔は正体を見破られたらその力を失うのです。